吊るし柿

私は約十年間 天為 という俳句結社に所属し、毎月五句を俳句誌に送り続けた。投稿した五句の中3句載れば、私の中では良い方であり、ほとんどが2句が多かった。それで一度だけ五句載りがあった。それが 吊るし柿 の句である。この句は師の講評句ともなった。

陶工のこだはる色や吊るし柿 好延

益子焼わら葺屋根の蔦紅葉

紅葉照るわら葺屋根へ登り窯

明治生れなほここに在り里の柿

百舌鳥鳴くや明治生まれの皴の数

DSC_0024

芸術家は完全な美を求めて懸命な努力をする。陶芸家ももちろんその例外ではない。柿の実の色は実に美しい、特に夕日を受けて輝くとき。それがつるし柿となるとまた違った美しさである。柿右衛門が陶器に柿の色を出そうと苦労したという話を聞いたことがある。陶工が色にこだわり執念を燃やすのは、文人が、そして我々俳人が一字一句に最後までこだわるのと同じである。この句の「吊るし柿」は陶工の家の軒先にあるのであろう。田園地方の静かな村に住み、窯を築いて陶芸にいそしむ人の生活が見えてくる。「こだはる色や」で切れているので、その色が何色か果たしてつるし柿の色かは分からない。でも柿の色ではなかろうか。 有馬朗人(天為主宰)